ほどいてやり直す勇気、ある?

「美容師さん、すみません。
もう少しここに、スプレーを吹いてもらえますか?」

私が着付けをしている最中に、お客さんがそばにいたヘアメイクさんに声をかけた。
ヘアセットのお客さんはその方が最後だったらしく、美容師さんは片付けを始めておられた時のことだった。

ずいぶん細かい依頼だなと思った。それと同時に、

「まずい。
これは、着つけでも何か気に障るところがあるというサインか?」

なんとなくそんな気がした。
スプレーが終わったところでちょうど着物が着終わった。帯を締める前にいつものように声をかけてみた。

どこか気になるところはございませんか?

「我慢しようかと思ったけど、やっぱり気になる」とのこと。
その方がおっしゃったのは、長じゅばんの衿に透けて見える微妙なしわだった。

その衿に芯を入れたのは、着つけ師だった。普通に、半襟の内側に入れてあった。
芯は普通は内側に入れる。
ただ、半襟のつけ具合では、入らなくて外側に入れることもある。

だがどうやら、話の流れから、そのお客さんはいつも外側に入れておられるのだろうとわかった。
それが内側に入れてあったものだから、衿芯のカチッとした固い感じが見えないのがご不満のご様子。

そこを気にされる方はめったにいらっしゃらないが、この方にはそれが大事なことなのらしい。
・・・ということが、察せられた。

うまくいかなかった時にはほどいてやり直す勇気を持て。

ちょっと前に、ボスから結局後でやりなおしたという事例を聞かされた時のこと。ボスから私たちにもそのように通達があったし。

着物を着てしまってから長じゅばんの衿芯を入れ直すとなると、一旦全部脱がせなければならない。
一瞬ためらったが、そばにいたプロデューサーさんに最終仕上がり時間を確認したら、あと20分ある。

「やり直しましょう。」

その方が最後のお客さんだったし、一緒に仕事をしていた他の着つけ師もみんな手すきだった。
20分もあれば十分だ。10分で着せて、10分余裕ができるだろう。

紐を全部ほどいて、着物も長じゅばんも脱がせた。
衿芯を入れ直し、
「これでよろしいですか?」

「衣紋の抜き加減は、これくらいで大丈夫ですか?」
「首周りはきつくありませんか?」

着物を着せたら、
「腰ひもの高さは?」
「褄の上がり具合はこれくらいでよろしいですか?」
「衿幅はこれくらいでしょうか?」

全ての行程で、一つ一つ全部確認しながらお着せした。

着物に詳しくない人なら、聞きすぎると恥をかかせることになる。
だが、着物に慣れていてこだわりがある人には、全部聞きながらやるのが一番!(笑)
だって、そうすればその方の思い通りの着つけに仕上がるから。(*^^)v

というわけで、一回やったのをほぼやり直すことにはなってしまったが、その方はご機嫌で出ていかれた。

ふぅ~っ!!
めでたし。めでたし。

せっかくここまで着せたのに。・・・なんてことは、思ってはいけない。
お客さんの心に寄り添うべし。
お客さんが何を望み、何を欲しているのか?

結局、
喜んでいただけたので、一安心。
後は最後まで、崩れずにちゃんと過ごせたら良かったんだけど、どうだったかな??
私たち、着せ終わったら帰っちゃうので、そこまではよほどの失敗がない限りは分からない。

帰り道には、どっと増えた観光客とすれ違いながら、写真を撮ってみた。

そう、お店に入りたがっている鹿さん。
昨日は厳島神社での婚礼だったのです。
お天気が良くて、波も静か。何よりでした。(*^-^*)