拝啓 平尾くんへ

寒かったでしょう。
冷たかったでしょう。
いくら温暖な瀬戸内気候とはいえ、4月の水は冷たいです。

昔は温水プールなんてなかったから、3月4月のまだ寒い内にも、冷たい水で泳いでいました。
「水泳部のやつらは河童みたいに、寒い内から泳いでやがる」と、笑われたものでした。
プールでさえ、あんなに寒かったのです。

4月には、どうかすると、上手に呼吸ができなくなるほどの水温。
全身を刺すような冷たい水。

しかもあの大雨の日の夜の、海。
この写真は夏の昼間のようですが、夜の海は全然違います。

海だから、渡りきるまでは足をつくこともできない。
流れはあるし、暗い中、何が浮いているかもわからない。
大した距離ではなくても、自然の水では何が起こるか分からない。

・・・ようこそ、無事に渡りきってくれました。

あなたにも、お母さんはいらっしゃるでしょう?
どんなに心配なさっていたことでしょうか。

陸へ上がってからも、温かく迎えてくれる人がいるわけではない。
行くあてもない。
どんなに心細かったことでしょう。

それでもあなたは逃げたかったのですね?

捕まってしまったとは言え、3週間の間にはどんなにたくさんの工夫をし、生き延びて、逃げていたのでしょう?
あなたには素晴らしい生きる力があります。

ええ、もちろん、決して褒められるようなことではありません。
責められるべきです。
3週間の間、どれだけ多くの税金を使って警察を大動員して捜索したか。
その損失は金額にすれば一体どれだけの数になるのでしょうか?

あなた一人の脱走のために迷惑をこうむった一般の人の数もまた、数え切れません。
どれだけ多くの人が不便な生活を強いられたことか。
イベントも中止になりました。経済損失もありました。大渋滞も起きました。
あなた一人の脱走のために、多くの人に迷惑がかかりました。

だけど、思うのです。
延べ人数1万5千人の警察を相手に繰り広げられた、大規模リアル鬼ごっこ。

3週間も逃げ回ることのできたあなたには、素晴らしい力があるはず。

どうぞ、二度と逃げ出そうなどとは思わず、今度は真面目に刑に服してください。
せっかくあと半年ほどで終わるはずだったという刑期は、ずっと伸びてしまったことでしょう。
でも、幸いあなたは人を傷つけたり、殺したり、そういう罪は犯してはいないのでしょう?

今度こそ、辛抱して、刑務所での仕事をやり遂げてください。
あなたの素晴らしい生きる力を、有意義なことに使ってください。
今度は人のために使ってください。

あなたにはきっと、それができるはず。
・・・そう思いたいのです。