「気持ちの良い着つけです。どうもありがとうございます。」
とても満足そうにそう言ってくださったのは、日本舞踊をしていらっしゃる方に訪問着をお着せした時。
先日、結婚式場でのこと。

なにしろ、その方は着物を着て登場された。普段着の着物ではあったが、髪の毛もバッチリ美しくセットしておられた。
ご遠方から来られたので帯はせずに上っ張りを羽織って来られたという。
聞いてみると、普段から冬には着物で生活しておられるとか。

・・・まだこの仕事をやり始めたばかりのころには、こういうお客さんは苦手だったな。
だって、仕事で着つけをしていても、私自身は日ごろから着物を着ているわけではない。
対して、そちらさんは毎日着物で生活していらっしゃる。
着物を着ることにおいては、お客さんのほうが明らかに上級者である。

そんなお客さんにご満足していただける着つけの方法は?

あなたなら、どう思います?
昔はそれが分からないから、私もよく失敗していました。
その方が思ったような着つけができていないのだな?と、いうのが分かるのですよ。
不満そうな表情でおられたり、「ここはもうちょっとこうしてください。」などと、言われたりする。
そうすると、こっちもカチンと来たり、逆にしょげてしまったり・・・。

そんなことをよくやっていました。(苦笑)

今回、ご満足いただけたのがわかったから、お客さんも、私も、ともに嬉しかった。
片付けをして帰ろうとしたときにソファに座っておられる前を通りがかったら、ニコニコして挨拶してくださった。
そういう時って、いい仕事ができたんだなというのがわかり、私もすごく嬉しい。(笑)

何がお客さんを喜ばせるのか。

答えは、この一点。
明らかに上級者の方にお着せするときには、その上級者の望みにできるだけ近づくようにお着せしようという、こちらの気持ちが伝われば良いというだけのこと。
そう、自分の技量がその方に勝っているなどと、思いあがってはいけない。
私だって、知識では負けやしないなんて、意地を張ってもしょうがない。

長く着物を着て来られた方には、その方なりの型がある。
それとは違うことをやってしまってはご不満が残るのは当然だ。
だから。
「襟合わせはこのくらいの深さでよろしいですか?」
「えもんの抜き加減は?」
「着丈はこれくらいでよろしいでしょうか?」
「褄の上り加減は?」
ポイントとなるところをいちいち尋ねながらお着せする。
紐の締め加減から、お太鼓の大きさまで、一つ一つお聞きしながら仕上げていった。

結局、最後に言ってくださったのが冒頭の言葉。(笑)

聞きながらやったんだから、お客さんの思い通りに出来上がるのは当たり前なんだけどね。(笑)
でも、それがお客さんにとっては、一番うれしいこと。
お客さんが何を一番望んでいるのかを知り、それを実現してあげること。
それが、何より喜んでもらえるモトとなる。
好みの問題は、聞けばわかるし。

後から、一緒に仕事していた仲間の着つけ師に言われた。
「あなた、ずいぶん気を使ったわね~。」(笑)

はい!!
上級者に立ち向かおうだなんて、無謀なことはいたしませんから!!(笑)