着つけ師の苦悩

「あの客さん、今日着物を返しに来られました。
『ようしてもろうた』いうて、すごい喜んどっちゃったですよ!」

と、振袖のお店から電話を頂いた。

去年・今年と、連続でご縁を頂いた振袖のお店。
廿日市の「ふりそで一番館」。
何とも良心的で気持ちの良いご商売をしておられるなあと、思っている。

なにしろ、えげつないお店が多い業界だから。
今年はニュースになった言語道断なお店もあったほどだし。まぁ、あれはちょっとトクベツ過ぎるけど・・・。

私が関わらせていただいたこのお店は、とても気持ちの良いお店だった。
そんな良いお店なのに、もしかして私は、苦情を受けなければいけないことをしちゃったかも。
と、仕事の後で気になって気になって、仕方がなかった。

いきさつはこんな感じ。

そのお嬢さんは、ずいぶんこだわりのあるお客さんだなと、来られた瞬間から思った。
帯の柄の出方を指示されたから。
成人式の着付けで、前柄の出方を希望されることはめったにない。というか、私には初めての出来事だった。
結び方の希望を言われることはあっても、前にどんな柄が出るかを気にするお嬢さんは、初めて。

これはそうとう強いこだわりがある方だから、気をつけて対応しなきゃ。
と、気を引き締めた。

とにかく何を言われても笑顔で!!

二重太鼓を逆巻きに締めることは時々あるが、振袖帯結びの逆巻きは初めての経験だった。逆に巻かないと、そのお客さんが希望する柄は出ない。
「ちょっと待ってね?今、脳内パズルやってるから!」と、笑わせながら結んだ。

最後の仕上げの帯揚げの時。
お花を作ってほしいと言われた。

前撮り写真の時はさておき、成人式本番で、帯揚げのお花を作った経験は、私にはまだない。
ちょっとためらったのだが、このお客さんのこだわりようでは、他のことを勧めてみてもおそらく受け入れられないだろうと、とっさに感じた。
だって、この日のために、色々調べて来られたに決まってる。

だが、成人式本番は長い時間着物を着用される。ちょっと写真を撮るだけとは、ワケが違うのだ。
お店から出て、車に乗るし、トイレだって行く。どんな動きをしても崩れないような着付けをしないと、後で申し訳ないことになる。お花なんか作ったら、その場は可愛いけど、何かの拍子に崩れてしまっては台無しだ。だから、基本、私はやらない。

だけど・・・。
結局、そばにいた仲間の着つけ師から輪ゴムをもらって、お花を作った。

すごく気にはなったけど、仕方ない。やるしかない。

なんていうことは、なかったのだ!!

と、気づいたのはその直後のお客さんの時。
前のお客さんに私がお花を作ったのを見ておられたのかどうかは知らないが、2人連続でお花を希望された。
ただ、今度は、「お花かリボンにしてほしい。」だった。
たまたまその帯揚げはリボンを作るのに最適な材質だったこともあり、
「リボンをお勧めします。」と間髪入れずに断言した。
理由を聞かれたので、↑のようなことを述べた。リボンなら崩れることはない。ちゃんと結んで始末するので、壊れない。一方、お花は輪ゴムで留めるだけだから、何かのはずみで手が当たったら崩れてしまうかも。崩れずに保たせる保証がない。
するとお嬢さんはすごく嬉しそうな表情で、「では、リボンで。」と言われた。

そうか。
納得の上でなら気持ちよく変更できるのだ。さっきのお客さんも、きちんと理由を説明すればよかった。そして納得の上でなお、お花を希望されるなら、万一崩れたとしても苦情は出ないだろう。
ためらう表情を見せはしたが、そこのところをきちんと言葉で説明することは怠ってしまった。
どうしよう。もし壊れていたら、お店に迷惑がかかっちゃったかもしれない。

時間がたつほど心配になって来て、2日後にお店に連絡した。
だから、さっき、電話がかかってきたわけ。
良かった。
最後まで崩れもせず、希望通りの着付けをしてもらえたことで、お客さんはとても嬉しそうだったとのこと。

やれやれ。
ふ~。

というわけで、
「また来年も引き続きお願いします。」
と、鬼が笑いそうな予約を頂いてしまった。(笑)

たかが着物の着つけだけど、私たちも色々苦労するんです・・・。