仕事として着つけをするようになってから、初めての大きな失敗をしました。
1週間前のことです。
「着崩れないのにラクである。」という一見矛盾した、けれども着物を衣服として着用するのに最重要なこの点を、今まで私は何より大事にしてきた。
多くのお客さんにお喜びいただいて来て、私自身、何よりそれが嬉しかったし、誇りに思って仕事させていただいてきた。
なのに。
私がお着せした方の裾が下がって、美容師さんがやり直してくださったのだという。
・・・。
今までほかの人の失敗をやり直す側になったことは数え切れないほどあったが、自分が直してもらう側につく日が来ようとは、夢にも思わなかった。
その失敗の原因はただ一つ。腰ひもが緩かったのだろう。
着物という衣服は、腰ひもこそが肝心カナメで、これが緩いと困ることになる。
裾が下がってきて引きずるようになってしまうのだ。
今回の失敗を連絡してくれた方は、「自分もやったことがある。たまにはそういう時だってあるよ。」と、慰めてくれた。
だが、「しょっちゅうやらかしている人にそう言ってもらっても、嬉しくもなんともない。」と、内心反発してしまう嫌な自分がいた。実際、その方が着つけをした時には後で直さなければいけないことがよくある。
人間だから、だれでもミスはある。
でも、仕事としてお客さんに着つけさせてもらう上で、それは許されないと思っていた。
ううう。エラそうなことは言えなくなっちゃったな・・・。(泣)
今回は、幸いなことに、結婚式場での仕事だった。美容師さんはたくさんいらっしゃる環境だから、万が一の時には手直ししてもらえる。これがもし、どこかへお出かけの時だったら・・・と考えると、ゾッとした。
絶対そんな失敗なんかしないと思っていたけど、実際にやらかしてしまったのだから、対策を考えねばなるまい。
原因は?
と考えていて、少し前に先輩から言われたことを思い出した。
だんだん年をとって来ると、自分の力が弱くなっていることに気がつかないことがある。今までと同じように締めたつもりでも、実際には緩くなってしまっていることがあるから、確認しながらやらなきゃダメなのよ。
そしてまた、もう一つ思い出した。
昔、着つけの先生に言われ続けたこと。
腰ひもをしめる度に、その先生は必ず一声かけてくれていた。「憎しみを込めて。」
その先生に言わせると、腰ひもだけは、憎しみを込めて締めろ。そのくらいで丁度いいのだと。
着物を着ていて、苦しかったり、痛かったりするのは、骨の周りにかけたひもがきつい時。骨の周りは神経が張り巡らせているから、ちょっときつくすると、痛い。すなわち、肋骨の周り、腰骨の周りだ。
腰ひもは、骨盤より上で、肋骨より下。あるのは中心の背骨だけだから、締めたひもが骨に直接かかることはない。なので痛くはないから、安心して締めろ。しっかり締めないと緩んでくるから、憎しみを込めて締めあげろと。
愛情を込めるが故に憎しみを込めて(?)、腰ひもを締める。(笑)
マントラのように着付けするたびにその言葉を心の中でつぶやきながら結んでいたのに、先週は、それを考えずに結んだ気がする。
基本は大事なのだ。
初心に帰ってやり直そう。
昨日、その式場で一週間ぶりに着付けをした。
確認したら今回は大丈夫だったとのことで、一安心。
「武内さんがそれって、珍しいね?もしかして、初めて?」
そうです。
「あちゃ――、いけんかったね~。」
こっぴどく叱られることが多いこの現場で、私の気持ちを察したボスがかけてくれた言葉が身に沁みた。
「アンタが着せたのを脱がせる時は、腰ひもの結び目が固くて困ることが多いのにね~。」
と、言ってくれたスタッフもいる。
口々に言ってくれる言葉をありがたく受け取りながら、でもやっぱり、慢心してはいけなかったのだ。
ポイントは確認しながら、正確な仕事をこなさないといけない。
心を込めて、お客さんに喜んでもらえる仕事をしなくては。
今日も、ちゃんと最後まで崩れずにいてくれたらいいけど。
どうぞ、快適に過ごしていただけましたように。と、祈る。